当直明けの、ぼんやりとした頭。 午後の外来、最後のひと踏ん張りを支えたい、その瞬間。
コンビニの冷蔵庫に並ぶ、色とりどりのエナジードリンクに、思わず手を伸ばした経験は、多くの先生にあるのではないでしょうか。
しかし、我々医師は、その缶の中に含まれる成分が、自らの身体とパフォーマンスに、どのような「作用」と「副作用」をもたらすかを、冷静に分析する必要があります。
この記事では、エナジードリンクを、その主要成分から「覚醒・興奮系」と「回復・栄養補給系」の2つに分類し、医師が、自らのコンディションを最適化するために、どちらを、いつ「処方」すべきか、その戦略を考察します。
【薬理作用の分析】エナジードリンクの2大系統
まず、市場に存在する多くのエナジードリンクを、その主たる作用機序から、2つの系統に分類して理解することが、全ての基本です。
① 覚醒・興奮系(カフェイン、アルギニンなど)
- 作用機序: アデノシン受容体をブロックし、中枢神経を興奮させる(カフェイン)。血管を拡張させ、血流を増加させる(アルギニン)。いわば、交感神経を優位にする「交感神経作動薬」のようなものです。パフォーマンスを「前借り」する、即効性の高い劇薬と言えます。
- 代表的な製品: 市場を独占する
レッドブル
やモンスターエナジー
、そして、かつて存在した「コカ・コーラ エナジー」が、この系統に分類されます。
② 回復・栄養補給系(ビタミンB群、ローヤルゼリーなど)
代表的な製品: リアルゴールド
やリポビタンD
などが、この系統の代表格です。
作用機序: エネルギー代謝を円滑にする(ビタミンB群)。滋養強壮(ローヤルゼリー)。これらは、身体という“化学工場”の稼働をサポートする「補酵素」や「栄養素」であり、直接的な中枢神経興奮作用は持ちません。
【ケーススタディ】なぜ、「コカ・コーラ エナジー」は消え、「リアルゴールド」は残ったのか?
コカ・コーラ社は、この両方の系統の製品を展開していました。しかし、2021年、「コカ・コーラ エナジー」は、日本市場から撤退しました。
これは、「覚醒・興奮系」市場が、レッドブルなどの強力な先発品に独占されており、後発品が入り込む隙がなかった、という市場原理を示唆しています。 一方で、古くからのブランドである「リアルゴールド」は、「回復・栄養補給系」という、異なるポジションを確立し、今もなお多くの支持を得ています。
【医師の処方箋】我々は、いつ、どちらを飲むべきか?
我々医師は、自らのコンディションと、その後の業務内容に応じて、この2つの系統を、明確な意図を持って使い分けるべきです。
- 処方①:「覚醒・興奮系」が有効なシーン適応:
当直中の、深夜の緊急コール対応前
どうしても乗り切らなければならない、会議やプレゼンの直前
用法: 短期決戦用。即効的なパフォーマンス向上が期待できるが、効果が切れた後の、反動による疲労(副作用)も大きいことを理解しておく。 - 処方②:「回復・栄養補給系」が有効なシーン適応:
当直明けの、もう一日
疲労が蓄積しているが、緩やかにパフォーマンスを維持したい日
用法: 持続的なサポート用。劇的な覚醒効果はないが、身体のエネルギー産生を、根本からサポートする。
【最も重要な注意点】 どちらの系統であれ、エナジードリンクで「前借り」したエネルギーは、必ず、その後の十分な睡眠と、バランスの取れた食事によって、「返済」しなければなりません。その返済を怠れば、心身の健康という、最も重要な元本が、確実に損なわれていきます。
まとめ:エナジードリンクは、用法・用量を守るべき「薬剤」
エナジードリンクは、単なる嗜好品ではありません。 それは、我々医師が、自らのパフォーマンスを、科学的根拠に基づいて、主体的にコントロールするための、強力な「薬剤」です。
その作用機序と副作用を正しく理解し、自らの状況に合わせて、適切に「処方」すること。 それこそが、プロフェッショナルとしての、賢明な付き合い方なのです。