【医師の視点】ジェネリック医薬品の品質問題の構造とその背景

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「先生、このジェネリックの薬、本当に大丈夫なんですか?」

相次ぐジェネリック医薬品メーカーへの行政処分を受け、外来で、患者さんからこのような不安の声を投げかけられた経験のある先生も、少なくないのではないでしょうか。

安価で、日本の医療費削減に貢献するはずのジェネリック医薬品に、今、何が起きているのか。 この記事では、この「品質問題」という根深い“病”の構造とその背景を解剖し、我々臨床医が、日々の処方において、どう向き合い、どう行動すべきか、その具体的な対応プロトコルを提案します。

目次

【医師の対応】我々が、日々の臨床で取るべき3つのアクション

この構造的な問題に対し、我々臨床医は、もはや思考停止でジェネリックを処方することはできません。自らと患者を守るため、以下の3つのアクションを、日々の業務に組み込むことを提案します。

アクション①:情報収集の徹底(疑わしきは、採用せず)

PMDA(医薬品医療機器総合機構)のサイトなどでは、行政処分を受けたメーカーや、自主回収の情報を確認できます。自院の採用薬リストと定期的に照らし合わせ、リスクの高いメーカーの製品は、可能であれば処方を避ける、あるいは、先発品や、信頼性の高い別のメーカーの製品への切り替えを検討する、というプロアクティブな姿勢が求められます。

アクション②:院内・院外薬局の薬剤師との、密な連携

薬剤師は、我々以上に、各ジェネリックメーカーの品質(崩壊性、溶出性、安定供給など)に関する、リアルな情報を持っている、最も信頼できるパートナーです。彼らと密にコミュニケーションをとり、「最近、〇〇メーカーの製品で、何か問題は起きていませんか?」と、積極的に情報を収集しましょう。

アクション③:患者への、誠実なコミュニケーション

患者さんからの不安の声に対しては、決して目を背けず、誠実に対応することが、信頼関係の維持に不可欠です。 「ご心配ですよね。今処方しているお薬は、問題が報告されているメーカーのものではありませんので、ご安心ください」 「もしご心配でしたら、今回は先発品で処方することも可能ですが、お薬代が変わってきます。どうされますか?」 といった、丁寧なコミュニケーションを心がけましょう。

【構造と背景】なぜ、ジェネリック医薬品の品質問題は繰り返されるのか?

相次ぐ行政処分の背景には、単なる個社の不正だけでなく、ジェネリック業界が抱える、3つの構造的な問題が存在します。

背景①:過度なコスト削減圧力国の薬価改定により、ジェネリック医薬品の価格は、年々引き下げられています。この極端な価格競争が、メーカーに無理なコストカットを強い、品質管理への投資を怠らせる一因となっています。

背景②:多品種少量生産という、製造ラインの疲弊多くのジェネリックメーカーは、限られた製造ラインで、非常に多くの種類の薬剤を切り替えながら生産しています。これが、小林化工で起きたような、有効成分のコンタミネーション(混入)を引き起こす、根本的なリスクとなっています。

背景③:規制当局の査察体制の限界本来、医薬品の製造工程は、国の厳格な承認書通りに行われなければなりません。しかし、性善説に基づいた、自己申告制の査察体制では、一部のメーカーによる申請資料の虚偽記載などを見抜くことが、困難になっているのが実情です。

【参考資料】近年、行政処分を受けた主なジェネリックメーカー

この問題の深刻さを理解するために、近年、業務停止命令などの重い行政処分を受けた、主なメーカーのリストを以下に示します。(2021年以降、順不同)

▼2021年
2月 9日 小林化工(福井) 116日間
3月 3日 日医工(富山)32日間
3月26日 岡見化学工業(京都) 12日間
8月12日 久光製薬(佐賀) 8日間
9月14日 北日本製薬(富山) 28日間
10月11日 長生堂製薬(徳島) 31日間
11月12日 松田薬品工業(愛媛) 65日間
12月24日 日新製薬(滋賀) 75日間
▼2022年
3月28日 共和薬品工業(大阪)33日間

【詳しく】製薬会社の行政処分相次ぐ メーカーに何が?(更新)より

まとめ:ジェネリック医薬品の選択は、医師の新たな「臨床判断」である

かつて、ジェネリック医薬品への変更は、主に経済的な理由による、半ば自動的な行為でした。 しかし、品質問題が露呈した今、「どのメーカーのジェネリック医薬品を選択するか」ということは、その品質、安全性、そして安定供給のリスクまでを考慮した、医師の新しい「臨床判断」の一つになったと言えるでしょう。

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