【判例解説】転医義務違反で1,800万円の賠償命令|勤務医・開業医も知っておくべきリスクと対応

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転医義務違反に関する医療過誤裁判

「このまま自院で診るべきか、それとも転院させるべきか…」
臨床現場で判断を迫られる瞬間は、勤務医・開業医問わず存在します。

今回は、実際に「転医義務違反」で病院と医師に約1,800万円の賠償命令が下された裁判例をもとに、
医師に求められる義務と対応のポイント、そして医師賠償責任保険の重要性について整理します。

似たようなケースで、似たケースでは、腸閉塞で71歳の女性が死亡し、遺族が最初に受診した診療所に対して約6,700万円の損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁が転院しなかったミスを認め、診療所に1,100万円の支払いを命じました。診療所に賠償命令がでているケースがあります。

腸閉塞のため71歳で死亡した東京都の女性の遺族が「繰り返し腹痛を訴えたのに適切に対応しなかった」として、最初に受診した有床診療所などに6700万円余りの損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は27日までに、大規模病院に転送しなかったミスを認め、診療所に1100万円の支払いを命じた。

転院させず死亡、診療所に賠償命令 東京地裁
目次

転医義務とは?|医師に課される法的責任

患者の病状によっては、医師にはより適切な医療を提供できる施設へ転院させる義務が生じます。
この義務が「転医義務」です。

法的背景

患者の疾患、疾病の状態によって、適切な医療行為を行うことができる医療機関へ転院をさせたうえでの治療を要する場合には、医師には転送をする法的義務が生じる。

これが転医義務です。

法的背景

最高裁の判例(平成9年2月25日 判例時報1598号70頁)では、次のように明確に述べられています。

「開業医の役割は、比較的軽症の患者の初期対応だけでなく、重篤な疾患が疑われる場合には、高度な医療機関へ転医させることにある」

特に、薬疹や副作用が疑われるケースで、紹介・連携が遅れたことによって患者が死亡した場合、
「必要な配慮義務を怠った」として過失責任が認められることがあります。

「開業医の役割は、風邪などの比較的軽度の病気の治療にあたるとともに、患者に重大な病気の可能性がある場合には高度の医療を施すことのできる診療機関に転医させることにある」

「開業医が本症の副作用を有する多種の薬剤を長期間継続的に投与された患者について薬疹の可能性のある発疹を認めた場合においては、自院または他の診療機関において患者が必要な検査、治療を速やかに受けることができるように相応の配慮をすべき義務がある」(最高裁判所平成 9年2月25日判決、判例時報1598号70頁)

最高裁判所平成 9年2月25日判決、判例時報1598号70頁

状況毎に、転送の必要性の可能性がある場合は、適切な医療機関に転送、配慮するように求められています。

クリニック、開業医での事例

クリニック医師、開業医が患者の重大な病気の可能性がある場合には、高度な医療が可能な診療機関に転院させることが求められています。

ただし、紹介しただけでは義務を果たしたことにはならず、転送先の医療機関に連絡し受け入れの承諾を得る必要があります。また、患者のこれまでの診療経過や疑われる疾患などの情報を受け入れ先の医師に説明する義務があります。(昭和59年:名古屋地方裁判所、平成4年:名古屋高等裁判所)。

急変が予想される場合は適切な対応が必要であり、怠った場合は注意義務違反とされることがあります。例えば、転院の際に患者のバイタルサインの確認を怠り、患者の家族の車で搬送した結果、医療機関に到着する前に患者が亡くなったケースがあります。この事例では当該医師の注意義務違反が認定されています(平成5年:静岡地方裁判所)

勤務医・開業医が注意すべき点

1. 「紹介だけ」では不十分

判例でも明示されていますが、転医義務の履行は「紹介状を書くだけ」では不十分です。

  • 受け入れ先に事前に連絡し、受け入れ確認を取る
  • 疾患の経過や懸念点を口頭・書面で引き継ぐ
  • 搬送中の安全管理(バイタルチェック・搬送手段)を行う

2. 状態悪化の予測と“積極的配慮”が求められる

  • 病状が不明確でも「悪化の可能性」がある場合には、慎重すぎるくらいの対応が求められる
  • 搬送手段にも注意(例:家族の車での搬送→到着前に死亡=医師側の注意義務違反とされた判例あり)

医師賠償責任保険の重要性

このような医療過誤・過失認定のケースにおいて、勤務医や開業医を守る最後の砦が「医師賠償責任保険」です。

今や医師賠償責任保険無しに診療活動をおこなうことは不可能といってよいでしょう

特に以下のような方には必須です:

  • スポットバイト・非常勤勤務が多い医師
  • 転送判断や救急対応が求められる施設で勤務している
  • 医療機関側の団体保険だけでは補償が不安な方

実際に筆者の周囲でも「知り合いの知り合い」程度の距離で医療訴訟に巻き込まれた話は珍しくありません。
保険への加入は、“転ばぬ先の杖”として極めて実用的なリスク対策です。

▶️ 詳しくはこちら:
勤務医の医師賠償責任保険の重要性と選び方【バイト医は必須】

まとめ

転医義務は、医師が適切な医療を提供するために欠かせない責務です。判例を通じて、転送の重要性とその不履行による法的リスクが明らかになりました。医師賠償責任保険に加入し、万が一の事態に備えることは、医師としてのリスク管理の一環として非常に重要です。

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この記事を書いた人

こんにちは、Dr. Harv です。専門医としてのキャリアを積む一方で、資産運用、副業、ポイ活にも取り組んでいます。
このブログ「dr-harv.com」では、日々の日常、投資の知見、趣味など幅広いトピックを扱っています。より良い未来につながることをコンセプトにしています。読者の皆様にとって何か役立つ情報を提供できれば幸甚です。

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