「宿日直許可」という言葉をご存知ですか?2024年から始まった医師の働き方改革で、当直を“労働時間としない”ための制度ですが、その裏には多くの矛盾と問題が潜んでいます。この記事では、宿日直許可の基本から、医師が知るべき本当の実態まで、以下の点を中心に解説します。
- 宿日直許可の基本と、許可がある場合/ない場合の違い
- 厚労省が定める「許可の3つの基準」とは?
- なぜ「普通に労働では?」と問題になっているのか?
- 医師のバイトや給与にどう影響するのか?
✅ 宿日直許可とは?医師の労働時間にどう影響するのか
まず、基本から押さえましょう。
宿日直許可とは、労働基準監督署長から得られる許可のことで、これがあると、宿直や日直の時間が労働基準法上の「労働時間」と見なされなくなります。
【許可があるとどうなる?】
- 労働時間としてカウントされない → 2024年から始まった「時間外労働の上限規制(年960時間など)」の計算対象外となる。
- 休息時間として扱える → 勤務と次の勤務の間に設けるべき「勤務間インターバル(9時間)」を、宿直勤務で代替したとみなすことが可能になる。
病院側にとっては、医師の労働時間を管理しやすくなり、上限規制をクリアするための「切り札」となり得ます。しかし、医師側にとっては、それが必ずしもメリットとは言えないのが実情です。
【最重要】宿日直許可を得るための「3つの公式基準」
では、どのような条件を満たせば、労働基準監督署は「宿日直許可」を出すのでしょうか。厚生労働省は、以下の3つの基準を定めています。ご自身の勤務がこれに当てはまるか、確認してみてください。
基準1:業務内容が「閑散」であること
「常態として、ほとんど労働する必要のない勤務であること」
具体的には、電話の収受や非常事態に備えた待機、少数の患者の検温や見回りなどが想定されています。通常の勤務と同じような業務は認められません。
基準2:十分な「睡眠設備」があること
「相当の睡眠設備が設置されていること」
夜間にしっかり睡眠が取れるよう、個室やそれに準ずる環境が用意されている必要があります。ソファや簡易ベッドしかないような場所は、この基準を満たしているとは言えません。
基準3:適切な「宿日直手当」が支払われていること
「宿日直手当が、同じ場所で同じ業務を行う労働者の1日あたりの平均賃金の3分の1以上であること」
許可を得た宿日直は、労働時間ではないため「割増賃金(残業代)」の支払義務がありません。その代わりに、この宿日直手当が支払われます。
今回は、厚生労働省の医療機関の宿日直申請に関するご相談について
の資料に目を通してみます。
矛盾だらけ?宿日直許可の「建前」と「現場の実態」
上記の3つの基準は、あくまで「建前」です。ここからは、多くの医師が「おかしい」と感じている、この制度の矛盾した実態に切り込みます。
「1時間に5人の診察でもOK」厚労省見解への現場の反発
基準1では「ほとんど労働する必要のない勤務」とされているにもかかわらず、厚労省のFAQでは「1時間あたり外来5人、入院3人、救急車1台程度なら閑散な業務」といった趣旨の見解が示されています。
これに対し、全国医師ユニオンは「もはや通常の労働だ」と猛反発。多くの現場医師も「それで休めるわけがない」と感じているのが本音でしょう。
「救急や産科でも取得可能」という最大の矛盾
特に問題視されているのが、救急や産婦人科といった、本来「閑散」とはほど遠い診療科でも許可が下りている実態です。
❓ 実際に宿日直許可が取れるケースは?
- 救急・産科も申請可能(FAQより)
- 大学病院や大規模医療機関でも「タスクシフト」等で取得例あり
Q. では、なぜ、宿日直許可の取得を検討する医療機関が増えているのでしょうか。
医療機関の宿日直許可申請に関する相談窓口FAQ
A. 宿日直許可を受けた場合には、その許可の範囲で、労働基準法上の労働時間規制が適用
除外となります。今後、令和6年4月から医師の時間外労働の上限規制がスタートしますが、
(1)宿日直許可を受けた場合には、この上限規制との関係で労働時間とカウントされないこと、
(2)勤務と勤務の間の休息時間(勤務間インターバル)との関係で、宿日直許可を受けた宿
日直(9時間以上連続したもの)については休息時間として取り扱えること、
など、医師の労働時間や勤務シフトなどとの関係で重要な要素になることが考えられます。
宿日直許可を受けた病院での業務は、労働時間とカウントされない。休憩時間として取り扱える。
大学からの派遣などで回していた病院は宿日直許可対応していないと医師の労働時間にひっかかるのでダメなんですね。
寝当直相当なら、まあ休めるかなと思ったのですが、FAQはさらに続きます。
Q. 「救急」や「産科」では医師の宿日直許可を得ることはできないと聞いたのですが本当でしょうか。
医療機関の宿日直許可申請に関する相談窓口FAQ
A. 「救急」や「産科」だからという理由で許可を取得できないということはありません。「救急」や「産科」で宿日直許可を得ることはできますし、実際に、「救急」や「産科」で宿日直許可を取得している事例があります。
救急や産科でも宿日直許可を得ることができるとあります。
でも、そんなことあります?まず休めないような。。
Q. 大学病院やそれに準ずるような大きな医療機関でも宿日直許可は取得できるのでしょうか。
医療機関の宿日直許可申請に関する相談窓口FAQ
A. 様々な工夫で許可を取得することも可能です。医療機関内での医師同士の役割分担やタス
クシフト/シェア、宿日直許可を取る時間帯等の工夫により取得しているケースもあるようです。
この辺りはあまり聞いたこと無かったのですが、大学病院の当直は基本的に宿日直許可対応となるということでしょうか
宿日直勤務であっても、通常勤務に相当するような業務の場合は割増賃金をもらえます。

💬 現場の声:「本当に休める当直なんてある?」
医師確保難の病院では制度が現実に合っていない
実態は「宿日直許可対応でも普通に忙しい」
割増賃金を払えばOK?→本質的な解決にならない
これには「そんなことあります?まず休めないような。。」と疑問を抱かざるを得ません。m3.comの記事によれば、産婦人科で宿日直許可を取得することで、見た目の時間外労働時間が劇的に短縮されるというデータも出ています。
これは働き方改革というより、単なる「見た目上の労働時間減らし」に過ぎないのではないか、という懸念が拭えません。
宿日直許可にジレンマ、「見た目」は改革も過酷になる恐れ (出典:m3.com 医療維新)
大学病院の「タスクシフト」という抜け道
大規模な病院でも、医師同士の役割分担やタスクシフト(他職種への業務移管)といった「工夫」をすることで、許可を取得するケースが増えています。しかし、これも実態として医師の負担が本当に減っているのかは、個々の病院を詳しく見なければ分かりません。
医師の給与やバイトにどう影響するのか?
この制度は、医師のキャリアや収入にも直接影響を及ぼします。
- 給与が下がる可能性がある これまで「当直」として時間外の割増賃金が支払われていた勤務が、「宿直」として**3分の1以下の「手当」**に置き換わる可能性があります。実態は忙しいまま、給与だけが減るという事態も起こり得ます。
- アルバイトの回数・機会が減る 宿日直には「週1回まで」という回数制限があります。また、大学病院などからの医師派遣に頼っていた地域の病院は、派遣元医師の労働時間上限に抵触しないよう「宿日直許可」の取得が不可欠になります。この許可が取れない、あるいは実態と合わないために医師を確保できない病院が出てくると、医師にとってはアルバイトの機会そのものが減ってしまう可能性があります。
まとめ:医師は「名ばかり宿日直」から身を守るべき
宿日直許可対応についてですが、地域医療、救急医療、バイトで宿日直を対応していた施設の当直医確保などなど影響は多岐に及びます。
当然、地域の病院では医師が少ないのでその影響を受けると考えられるので、宿日直許可されていても通常の当直と変わらない実態は想定されます。また、この場合割増賃金を支払えば良いという問題でも無いでしょう。
宿日直の回数制限があるので、当直医が決まらない問題は多くの病院でおこりうるのでは無いかと考えています。
宿日直許可対応病院では原則寝当直です。問題は、宿日直許可対応で通常業務をさせられるケースですね。
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