20242024年4月から始まった「医師の働き方改革」。
時間外労働の上限規制という、日本の医療制度に対する、壮大な「外科手術」から1年以上が経過しました。現場の“患者”の容態は、本当に改善したのでしょうか。
むしろ、我々の肌感覚が伝えてくるのは、「申請できない残業」や「中堅層への負担集中」といった、予期せぬ“術後合併症”の数々です。
この記事では、この改革がもたらした「合併症」の“病態”を、臨床医の視点から冷静に分析し、制度と現場の乖離(かいり)が埋まるまでの期間を、我々がどう生き抜くべきか、その具体的な「生存戦略」を提案します。
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【診断】働き方改革がもたらした、5つの“合併症”
術後1年、我々が臨床現場で観察している「合併症」は、主に以下の5つに分類できます。
①「サービス残業」という名の、皮下出血
勤怠システム上の労働時間は減少。しかし、救急対応や術前準備などが「自己研鑽」と見なされたり、申請時間の上限を超えた分が“なかったこと”にされたりする。「給料は減ったのに、業務は変わらない」という、無給労働(タダ働き)という名の“内出血”が、水面下で進行している状態です。
②「中堅・上級医」への、負荷の転移
若手医師を時間外に呼び出せないため、緊急手術や急変対応の負荷が、30代後半から50代の、診療と管理業務の両方を担う、中堅・上級医に集中。特定の“臓器”を守るために、別の“臓器”に過大な負荷がかかり、疲弊しています。
③「管理業務」という、新たな炎症反応
勤怠管理システムの導入と、その厳格な運用に伴い、勤務記録の作成、差し戻し、修正といった、本来の診療業務とは無関係な「管理業務」が爆発的に増加。これは、生産性を伴わない、全身性の“炎症反応”と言えるでしょう。
④「チーム医療」の機能不全
時間外労働を補うために増員したものの、チームに馴染めない人材が流入し、かえって現場が混乱する。あるいは、バイト制限による収入減を理由に、これまで現場を支えてきた優秀な中堅医師が、大学病院などから離脱(退職)し、チーム全体の活力が失われています。
⑤「持ち帰り仕事」という、症状の家庭内への波及
院内での残業時間は減っても、自宅での論文執筆や、学会準備、あるいは、終わらなかったサマリー作成といった、境界の曖昧な業務が増加。仕事という“病巣”が、家庭という、本来、心身を休めるべき場所にまで“浸潤”している状態です。
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【我々の生存戦略】個人でできる、3つの“対症療法”
制度という「根治療法」が、本当に効果を発揮するまでには、まだ時間がかかります。いや、はたして改善するのか?
それまでの間、我々個人が、日々の苦痛を和らげ、この困難な時代を生き抜くための「対症療法」を提示します。
処方箋①:働き方の、柔軟性の再確保(副業・バイト)
制度に縛られ、失われた収入と、時間の主導権を、自らの手で取り戻す。常勤先の勤務形態を、例えば1.0から0.8へ調整し、空いた時間で、より時間対効果の高いスポットバイトなどを組み合わせる。これは、最も現実的で、効果の高い戦略です。
処方箋②:当直QOLの向上(環境改善による、ストレス耐性の強化)
避けられない長時間拘束なら、せめてその「質」を高める。快眠グッズや、パフォーマンスを維持するための食事術などを徹底し、心身の消耗を最小限に抑える。これにより、日中の過酷な業務に耐えるための「体力(ストレス耐性)」を温存します。
処方箋③:自己防衛のための、情報武装
制度の理想と、現場の現実を知ること。そして、note
などで、他の医師のリアルな声に触れること自体が、精神的な孤立を防ぎ、次のキャリアを考える上での、重要な判断材料となります。


まとめ:制度と現場の狭間で、賢く、したたかに
「医師の働き方改革」の理念そのものは、間違いなく正しいものです。 しかし、その運用が、現場の実態と乖離し、「制度を守るために、現場が犠牲になる」という、本末転倒な事態に陥っているのが、術後1年時点での、多くの臨床医の客観的な評価ではないでしょうか。
この制度と現場の狭間で、ただ疲弊するのではなく、自らのキャリアとQOLを守るための「生存戦略」を、賢く、そして、したたかに実行していく。 それこそが、我々、現代の医師に求められる、新しいスキルなのです。
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