カタログギフト、食事券、クオカード…。株主優待は、魅力的で、投資の楽しみの一つです。
しかし、我々医師は、その「楽しさ」の裏に潜むリスクと、多忙な専門職にとっての非効率性を、冷静に分析する必要があります。
かつての「優待王」JT、オリックスの相次ぐ優待廃止は、この日本独自の投資スタイルが、大きな転換点を迎えていることを示す、重要なシグナルです。
この記事では、優待投資の構造的リスクを分析し、多忙な医師が取るべき、より合理的で盤石な資産形成戦略を提案します。
【構造的欠陥】なぜ、株主優待投資は医師に向かないのか?
株主優待投資には、特に我々のような多忙な専門職にとって、見過ごせない3つの構造的な欠陥が存在します。
① 時間対効果の低さ
優待内容の確認、権利確定日の把握、送られてくる金券や商品の管理、利用期限のチェック…。数十の優待銘柄を保有することは、その「管理コスト」に、先生の貴重な時間を奪われることを意味します。時給換算すれば、そのリターンは本当に見合っているでしょうか。
② ポートフォリオの歪み
「食事券が欲しいから」という理由で外食産業の株を、「カタログギフトが魅力的だから」という理由で特定の企業の株を購入する。これは、本来最も重視すべき**「企業の成長性や収益性」**という観点から目を背けさせ、偏った非合理的なポートフォリオを構築してしまうリスクを孕んでいます。
③「株主平等の原則」とのミスマッチ
海外の投資家や機関投資家は、全ての株主に公平な、配当や自社株買いによる利益還元を求めます。グローバル化が進む現代において、少額の個人株主のみを優遇する優待制度は、今後も縮小・廃止の傾向が続くと考えるのが合理的です。
相次ぐ優待廃止・改悪の具体例
この流れは、すでに現実のものとなっています。
- オリックス、JT: かつて個人投資家に絶大な人気を誇った両社も、株主還元の公平性を理由に、優待制度の廃止を決定しました。
- ペッパーフードサービス(いきなり!ステーキ): 業績悪化を理由に、2022年に優待を廃止。
- すかいらーくHD(ガストなど): 業績不振の時期に、優待額を大幅に減額する「改悪」を実施。
- ひろぎんホールディングス: 人気だったカタログギフトを、少額のギフトカードに変更する「改悪」を発表。
これらの事例は、株主優待が、企業の業績や経営方針によって、いとも簡単に変更・廃止されうる、極めて不安定なものであることを示しています。
優待投資からの、合理的な出口戦略
では、私たちはこの現状をどう捉え、どう行動すべきか。
- 「コア・サテライト戦略」を導入する これが本記事の結論です。プロの投資家も実践する、合理的で盤石なポートフォリオ管理術です。
- 【コア(中核)】資産の8~9割S&P500や全世界株式(オルカン)といった、全世界の成長を享受できる、低コストなインデックスファンドに、NISAなどの非課税制度を活用して、淡々と積立投資を行う。これが、多忙な医師にとって最も時間対効果の高い、資産形成の王道です。
- 【サテライト(衛星)】資産の1~2割この小さな枠の中で、趣味や、応援したい個別企業への投資を楽しみます。株主優待も、この「サテライト」の一部として、生活を彩るスパイスとして付き合うのが、最も健全な形です。
- 優待銘柄の「売却ルール」を明確にする「優待が廃止(または改悪)されたら、その銘柄を保有し続ける根本的な理由を再検討する」「企業の業績が著しく悪化したら、優待目的であっても売却を検討する」といった、自分なりのルールを事前に設けておくことが、大きな損失を避けるために不可欠です。
4. まとめ:優待コレクターから、資産のポートフォリオ・マネージャーへ
株主優待は、日本独自の面白い文化であり、投資のきっかけとして非常に優れています。 しかし、それに依存した投資戦略は、もはや時代の変化に対応できなくなりつつあります。
これからの医師の資産形成は、優待品を集める「コレクター」ではなく、自らの資産全体を、論理的に管理・運用する「ポートフォリオ・マネージャー」の視点を持つことが、何よりも重要です。