「周りの同期、一体何時間寝てるんだろう…」 「寝不足すぎて、頭が働かない。これって普通?」
毎日、目の前の業務と、終わらない自己研鑽に追われる研修医の先生方。その慢性的な睡眠不足を、「仕方ないこと」だと諦めていませんか?
しかし、我々医師にとって、睡眠不足は単なる疲労ではありません。それは、判断力を著しく低下させ、患者さんを危険に晒す、医療安全上の重大なリスク因子です。
この記事では、この「睡眠負債」という名の“病”に対し、我々自身が下すべき、戦略的な自己処方箋を提案します。
【データで見る】研修医の睡眠時間のリアル
結論から言うと、研修医の平均睡眠時間は5〜6時間未満というのが実情です。
- 平均的な日: 5〜6時間程度
- 当直や救急外来の日: 2〜3時間、ひどい時はそれ以下も…
- 比較的落ち着いている科: 7時間以上眠れる日もある
私自身の研修医時代も、働き方改革など無い時代。救急外来の当番の日はほとんど眠れず、翌日の業務が本当につらかったことを覚えています。平均すると、やはり6時間を切っていました。
古いデータでは「研修医の65%が睡眠時間5時間以下」という調査もあり、働き方改革が進んだ現在でも、この状況が劇的に改善されたとは言いがたいのが現実です。
【臨床的意義】睡眠負債が引き起こす、3つの深刻な合併症
睡眠負債という「疾患」は、放置すれば、確実に重篤な「合併症」を引き起こします。
① 認知機能障害(判断力の低下)
睡眠不足の脳は、血中アルコール濃度0.1%の酩酊状態に匹敵する、という研究もあります。我々は、酔った状態で患者さんの前に立ち、メスを握ることができるでしょうか?処方ミスや手技の失敗など、重大な医療過誤に繋がるリスクが、確実に増大します。
② 精神神経症状(バーンアウト・うつ)
慢性的なストレスと睡眠不足が、バーンアウトやうつ病の引き金となることは、もはや常識です。イライラしやすくなる、気分が落ち込む、といった症状は、決して「気のせい」ではありません。
③ 身体的合併症(免疫力低下など)
免疫機能の低下による易感染性や、長期的な視点では、生活習慣病のリスクを高めることも知られています。
【明日からできる】激務を乗り切るための睡眠確保術5選
【治療プロトコル】明日からできる、5つの戦略的処方箋
構造的な問題はすぐには解決しません。だからこそ、自分でできる工夫で睡眠時間を1分でも多く確保し、その質を高めることが、我々にできる最善の治療です。
処方箋①:計画的パワーナップ(15分間の戦略的鎮静)
昼休みや当直中のわずかな休憩時間に、15〜20分程度の仮眠をとりましょう。タイマーをセットし、アイマスクや耳栓を使うと、短時間でも驚くほど脳が回復します。これだけでも午後のパフォーマンスは大きく変わります。
処方箋②:タスク・トリアージ(「断る」という、高度な臨床判断)
自分のキャパシティを超える仕事量を、全て受け入れる必要はありません。緊急度の低いタスクに対し、勇気を出して上級医に「今はできません」「少しお待ちいただけますか」と伝えること。それは、患者さんの安全を最優先するための、高度な臨床判断です。
処方箋③:戦略的撤退(「帰る」という、自己投資の意思決定)
同期が残っているからと、付き合いで病院に残っていませんか?帰宅できるチャンスがあれば、迷わず帰りましょう。中途半端に病院に残って疲弊するより、自宅で質の高い休息をとること。それこそが、明日の自分への、最高の「自己投資」です。
処方箋④:入眠儀式の確立(睡眠の質を高めるための環境整備)
朝の時間を少しでも睡眠にあてるため、白衣やスクラブ、持ち物などは前日の夜に準備しておく。仮眠前にはスマホを見ない。こうした小さな「入眠儀式」の積み重ねが、睡眠の質を高めます。
処方箋⑤:快眠グッズへの投資(パフォーマンスを最大化する装備)
短い時間でも深く眠れるよう、自分に合った枕や、光と音を遮断するアイテムに投資する価値は、十分にあります。これらは、あなたのパフォーマンスを最大化し高いリターンをもたらします。
まとめ
睡眠は私たちの体と脳にとって、非常に重要です。睡眠不足は、判断力や集中力の低下、疲労、イライラ、そして最も危険なのは医療過誤を引き起こす可能性があることです。特に、研修医のような高い精神的・肉体的ストレスがかかる職種では、十分な休息が必要です。
医師の働き方改革で職場環境が改善することを期待しています。